産学官連携でミズアブの家畜化研究をスタート

ミズアブ(昆虫)を養殖魚類の飼料化に向けた、産学官連携の研究プロジェクトがスタートした。その中身とは?

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食品残渣を発酵させて堆肥化する事業などを手掛ける双葉三共(本社・広島県東広島市)は、東京大学、人間環境大学(愛知県岡崎市)、農研機構(茨城県つくば市)と共同で、ミズアブを原材料とした養殖魚の飼料化に向けた「事業化可能性の基礎研究」を始めた。

ミズアブが養殖魚類の飼料の代替に

ミズアブ(Black Soldier Fly)は、北米原産のハエの仲間で成虫の体長は約2cm。日本には戦後に侵入したとされ、北海道以外に広く分布している昆虫だ。ミズアブの幼虫は温暖な気候の下で家庭の生ゴミなどを食べて育ち、気温が高い夏に繁殖する。

black soldier fly
ミズアブの幼虫。生後2週間以内。東京大学農学部にて2023年9月22日撮影。(海藤秀満撮影)

成虫は人間や家畜を刺す害もなく、幼虫は含有する栄養の量とバランスが優れているとして、ペット(爬虫類、両生類)のエサとしても流通している。近年、ミズアブの幼虫を養殖魚や養鶏の飼料としての有用性、安全性や産業化の研究が世界的に進められている。

世界的なタンパク質の危機問題が背景に

ミズアブが代替飼料として注目される背景には、世界的な「タンパク質の危機問題」がある。 これは、世界の人口が現在、増加を続け、2050年には100億人に達するとの予測がある。早ければ、2025年から30年頃までに、人類のタンパク質の需要が供給を上回る「タンパク質の危機問題」が懸念されているのだ。中でも、人間にとって主要なタンパク源の1つである魚は、世界的に消費量が増加する一方で、現行の養殖飼料「魚粉」が高騰していて、高価になり手に入りにくくなる問題がある。

ミズアブの幼虫。生後2週間程度。東京大学農学部にて2023年9月22日撮影。(海藤秀満撮影)

こうした問題を警鐘するきっかけとなった1つの報告書がある。2013年に国連食糧農業機構(FAO)が公表した報告書だ。この報告書では、昆虫を人類の食糧・飼料としての将来性について考察している。アジアやアフリカ地域では食材として以前から食べる習慣がある昆虫だが、西洋にはその習慣がほとんどない。人類の食糧難、タンパク質危機問題の解決策として温暖な気候の下で、安全性が確認できる食用・飼料用の昆虫を飼育化することの有用性について報告がされている。この頃から昆虫食(代替肉)や東南アジアでの昆虫飼育、特にミズアブの飼育の事業化の研究が活発になった。

産学官連携での研究がスタート

双葉三共は、生ゴミなどの食品残渣を受け入れ、発酵させて堆肥化する事業を行っているので、搬入される生ゴミにたかるミズアブ見て、自社のノウハウを生かして飼育化できないか、研究を始めるきっかけを得た。

ミズアブの幼虫。生後3週間程度。東京大学農学部にて2023年9月22日撮影。(海藤秀満撮影)

そこで、農研機構に研究支援を依頼したところ、応用昆虫学の権威である東京大学大学院農学生命科学研究科の霜田政美教授を紹介してもらい、霜田教授からは魚類養殖の専門家である人間環境大学・環境科学部の森岡伸介教授への紹介と繋がり、最初は産学協力の体制でスタートした。さらに、本件は広島県の環境・エネルギー産業集積促進補助金の対象にも採択され、産学官の共同研究体制が確立した。

双葉三共はニホンナマズを実験対象に、魚粉飼料での飼育とミズアブを同飼料に加えた飼育条件での成育データの比較などを研究し、その有用性を証明する。淡水魚を実験対象に選んだことに対して、人間環境大学の森岡教授は、「飼料が大量に必要な大型の海水魚よりも、従来よりミズアブ飼料に適合性が高いと考えられている比較的小型の淡水魚で小規模な研究を始めるのは妥当。」と評価している。

ミズアブの幼虫。生後4週間程度。東京大学農学部にて2023年9月22日撮影。(海藤秀満撮影)

海外では盛んなミズアブの飼料化の研究・ビジネスだが、家畜や養殖魚の飼料として幅広く流通させるためには、安全性のためにトレーサビリティー(生産流通履歴)が確認できる仕組みも必要になる。東京大学の霜田教授は「日本は昆虫の飼料化の研究では海外に遅れをとっている。ウクライナでの戦争による穀物流通の滞りなど、特定地域への食糧依存を回避するためにも国内での昆虫の飼料化の研究を進めることは重要だ。ただ、国内では産業化するには人件費が海外よりも高い課題もある。生産コストをどう抑えるかも焦点になる。」と解く。

双葉三共では、事業で扱う生ゴミからミズアブの飼育化を加えることで、堆肥化までの間に新たな付加価値を加えたいとしている。食品残渣の再利用化で、ミズアブ飼育に必要な餌や水も少ないため、環境負荷も抑えることができる。さらに、ミズアブの幼虫から搾り取れる油の応用先(バイオディーゼル、化粧品など)についての研究も視野に入れている。共同研究の今後の成果が注目される。

(双葉三共は、Japan 2 Earthのコンテンツ・パートナーです。)

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