【佐渡生き物語】特別天然記念物のトキ 命の軌跡を追う
新しいフォトエッセイのシリーズの第1回では、映像記者の大山文兄が絶滅危惧種であるトキの写真をアップで見せてくれます。
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豊かな自然に恵まれた新潟県・佐渡市。絶滅した日本の特別天然記念物の野鳥、トキの野生復帰が行われている唯一の島だ。私は、産経新聞社の写真報道局のカメラマンだったが、トキを撮影するために新聞社を退職、2020年に佐渡島に移住した。そこで出会った、トキをはじめとする希少な渡り鳥や生き物の姿を、カメラのレンズを通さなければ見ることができないアップも含めて写真でお届けする。これらの写真を通じて、日本の生物多様性、自然の命の育みを感じてもらえれば嬉しい限りだ。
トキの学名はニッポニア・ニッポン。ペリカン目トキ科に分類される。かつては日本本州の田や森林で普通に見られていたが、水田の害鳥として扱われ、トキ色と呼ばれるその美しい羽の色から人による乱獲が進んだ。農薬の使用や森林の伐採といった生息地の環境も悪化、その数を減らしていった。1981年、石川県で野生のトキが捕獲されることで、日本の自然界のトキはいなくなった。保護されたトキは佐渡で繁殖が試みられたが、2003年に国産の最後のトキ「キン」が死亡したことで、国産のトキは絶滅することになった。
中国から天皇陛下に贈呈されたトキのペアで人工繁殖を実施、2008年に佐渡で自然放鳥が行われる。試行錯誤の末、自然放鳥を続け、佐渡に定着しているトキの数は500羽以上に増えた。
撮影ルール
佐渡では、ネグラへと帰っていくトキの群れを観察することも可能になった。ただ、撮影となると話は別だ。トキは臆病なため、撮影のために近づくと、せっかくの巣を放棄してして戻ってこなくなってしまい、トキの生活の場を奪うことになってしまう。
このため、トキの観測や撮影にはルールがある。トキを驚かせないように、車の中で撮影することが求められる。その際、望遠レンズが光らないようにレンズを車内に納めて撮影しなければならない。
除草剤を使わない、育むための努力
佐渡のほとんどの水田は除草剤が使われていない。トキのエサになるカエルや虫などが生息していなければ、トキも生きていくことができない。エサ場を確保するためだが、その代わりに人が草刈を行うことになる。私も草刈を手伝っているが、きれいに刈ったと思ったらすぐに生えてくる。雑草との戦いだ。
夏から秋
今年の夏は記録的な暑さが続いたが、これから夏にかけてトキの黒い羽が抜け替わり、トキ色の美しい羽の姿を見ることができる。
人の手に守られた里山の風景。育む人たちの努力があってこそ維持できている。
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大山文兄(おおやま・ふみえ)産経新聞社写真報道局で新聞協会賞を2回受賞。新聞社時代に11年間にわたり、トキの野生復帰を取材。2020年に退社して佐渡島に移住、農業に従事しながら、トキをはじめとする動物の写真を撮り続けている。映像記者として佐渡の魅力を発信中。インスタグラムでフォローしてください。
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