アナログからクールな産業廃棄物業界へ 女性が働きやすい職場を目指し、年間900時間の作業時間を削減

産業廃棄物処理業界も女性が活躍するようになってきた。産業廃棄物処理やリサイクル事業を手掛ける業界大手「ツネイシカムテックス」はDXの導入で、社員全員の働き方改革を実現するようになっている。

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どちらかといえば敬遠されがちだった産業廃棄物処理業界で女性が活躍している。デジタルトランスフォーメーション(DX)を取り入れ、家庭も仕事も両立、働きやすい職場実現のため紙を廃止、廃棄物情報管理システムを確立し仕事効率化の立役者となった「ツネイシカムテックス」の辻田寛子(つじた・ひろこ)さんに話を聞いた。

きっかけは正社員

――ツネイシカムテックスに入社したきっかけを教えてください。

岡山の商業高校で3年間、情報処理を勉強しましたが、プログラミングの基礎を勉強しただけでした。卒業後は信販会社、保険代理店の営業アシスタントをしていましたが、退職しました。そこで、声をかけてくださったのが当時のツネイシカムテックスの社長でした。環境やリサイクルというよりも、正社員になれたらいいな、という気持ちで入社しました(笑)。

パソコンに向かう辻田さん(同社提供)

入社当時は営業事務として、搬入される廃棄物のデータ入力をするなどシステムを使う側でした。汎用システムを使って廃棄物を管理していたのですが、データが重すぎてすぐに固まってしまうなど、使いづらさを感じていました。

――2018年11月からシステム担当になられましたが、情報処理系だったことが見込まれ、白羽の矢が立ったのでしょうか?

情報処理の経歴が買われたのだと思いますが、10年以上前の知識なのでゼロからのスタートです。当時、廃棄物データを管理するために、世界的にも知られているSalesforceを導入していたのですが、「ただデータを登録するだけの箱」としてしか使用されておらず、部署間の情報のやり取り、承認等は紙と印鑑。パソコンとプリンタとの往復で効率が良いとはいえない状況でした。システム担当になったものの、何をどうすればいいのか皆目わからない。何ができるの?からスタートしました。

書類をまとめるのに輪ゴムに

まずは事務作業の効率化に重点を置き、小さなところから始めた。廃棄物処理の情報を登録する画面を大幅に改修、廃棄物の搬入予定の登録、履歴を一目で見られるようにするなどして、ペーパーレス化を実現。この改修で、廃棄物の搬入の登録件数が2倍以上に増えても、作業工程は3分の1以下に減らし、年間に換算すると900時間の作業時間の短縮に成功した。

――ペーパーレスになる前の作業を教えてください。

お客様から処理依頼をいただく廃棄物は多種多様であり、正確に詳細な情報を管理する必要があります。その情報を基に搬入される廃棄物は、ドラム缶だけで1日平均500本以上、多い日には1000本以上になります。そのうえフレコンバッグ、パレット積み、ダンプ、ローリーなど荷姿も様々です。これらの情報を登録して判定、承認を事前にとるのですが、メールなどで送られてきた電子データがあっても、廃棄物の写真や素材の資料など一つ一つをPDF化して印刷してまとめなければなりません。紙の枚数が多くなりすぎて、ホチキスでは止められず、輪ゴムでまとめることもありました。

ペーパーレス前の事務業務(同社提供)

書類も人が運んで承認者の決済箱に入れる。印鑑をもらったら次の承認者に回す。その繰り返しです。処理可否判定の結果コメントも全てデータ登録しなければなりません。会社のサーバー内のデータには外出先からアクセスできないため、確認したい時は事務所に電話をして確認してもらっていました。

――作業工程でどのぐらいかかっていましたか?

エクセルを開いて一つ一つ確認するため、一つの工程で5分から10分かかっていたと思います。承認には、承認者が1週間分をまとめて確認するため、案件の判定が戻ってくるのに1週間から2週間かかることもありました。

廃棄物個体管理の「特命プロジェクト」が始動

自分の体験や同僚の意見を踏まえ、改善要望をまとめてシステムに反映。事務作業にかかる時間短縮は実現したが、システム開発自体はシステム会社が行っており、せっかく与えられたシステム管理者の権限も活かしきれずにいた。

2019年6月、会社の課題解決を図る「特命プロジェクト」へ異動となり、廃棄物の個体管理システムの開発に着手、システム管理者としてフル稼働することになる。

――1日1000本のドラム缶ですから、その苦労は並大抵でなかったのでは?

正直、気が遠くなりましたね。QRコードによる廃棄物の個体管理システム開発時には、実際の搬入、処理現場に何度も足を運び、試行錯誤しました。

QRコードとハンディターミナル(同社提供)

QRコードラベルは、貼り間違えると「情報」と「廃棄物」の不整合からトラブルが発生する可能性があります。そこで、まずは情報を持たない“空のQRコードラベル”を搬入された廃棄物に貼り付け、別管理する廃棄物情報を専用ハンディターミナルで読み取って、廃棄物に貼り付けたQRコードに紐づけするようにしました。

また、廃棄物の個体情報をSalesforceで一元管理できるようにしました。

QRコードが夢にでてくることに

QRコードのラベル一つとっても試行錯誤のたまものだったという。

――QRコードのラベル選定に苦労されたのですか。

屋外に置く期間もあるので紫外線で劣化しないか、いろんなものに「テスト中」と書いたラベルを貼りまくりました。耐水性を試すために何度も水をかけました。結果、冷凍食品などに使用する糊を、素材としてはプラスチック製を選びました。サイズにも悩みました。大きくすると、シール自体にコストがかかる。決めるまで数カ月かかり、QRコードが夢にまで出てきました。デバイス選定も悩みました。導入までに何度も現場を訪れました。ラベルの破損や積んだ時に見えなくならないように、同じラベルを2枚貼るようにしました。

QRコードをハンディターミナルで読み取る現場社員(同社提供)

――個体管理のメリットは大きかったですか。

万が一、異物が混入して発熱などの反応が起きるなどのトラブルが発生した時にも、どの廃棄物が原因だったかがその場でわかるようになりました。これまでは、「いついつに受入れした、あのドラム缶が原因か?」というように、ベテラン社員の勘や経験に頼ることがありました。また、在庫情報の正確な管理や、処理に伴い発生する燃焼ガス中の塩化水素や硫黄酸化物等の負荷量の数値予測も行えるようになりました。

待機車両の行列のデジタル化も

デジタル化に積極的でなかった人たちも次第にSalesforceを中心とした廃棄物情報管理の便利さに気付き、これができないか、あれができないかなど様々な意見が寄せられるようになる。その一つが廃棄物搬入車両の入場管理だった。

――搬入の車列は相当長かったのですか?

搬入する順番を手書きでまとめていたため、長ければ30台以上のトラックが並び3時間以上待つこともありました。2021年12月に搬入予定のデータを使ったアプリを開発、ここでもQRコード管理用に使用しているスマホ型ハンディターミナルを活用し、受入現場がハンディターミナルの画面から待機車両の車を荷下ろし場所ごと、受付順にチェック、車の誘導係に指示できるようにしました。運転手にはスマートフォンのショートメールで入場案内を行えるようにしました。

並行して、まだ紙で行っていた見積書の承認や契約書の捺印ノートも廃止し、営業に関連する業務も効率化しました。

「お母さん、すげえじゃん」に励まされ

家庭と仕事の両立で大変だったこともあったが母親、女性だからこそのニーズをDX化に反映することができたと振り返る。

――DX化に女性の視点が生かされたと思いますか?

あったと思います。私自身、現在大学生の息子が一人いますが、入社当時は小学生でした。事務作業が多く残業が続き、寂しい思いをさせてしまったと思います。晩ご飯の時間に次の日の食事を用意します。夫がサポートしてくれますが出張の時もあり、思い出したくないぐらい大変でした。だから、業務を効率化して、残業をなくし、女性たちを定時に帰してあげたい、強い思いがあります。家庭だけではなく、自分の時間を持って充実してほしい。もう、お母さんのような心境ですね。そのためにもかゆいところに手が届くようなシステムにしたいと強く思っていました。

打ち合わせ中の営業部社員。女性の数も増えてきている(同社提供)

――昨年、SFUG CUP 2023 第11回Salesforce全国活用チャンピオン大会で中小企業部門ファイナルに出場されました。

大会で発表しましたが、おかげでこれまで行ってきたことの集大成ができたと思います。いろんなことが結びつきました。大会では最終的に優勝はできませんでしたが、息子から「お母さん、すげえじゃん」と言ってもらえました。何よりの誉め言葉だと思っています。

――今後の展望を聞かせてください。

私たちが開発した廃棄物情報管理システムの経験と知見を、同じ業界の課題解決に役立ててほしいと思っています。大型のタンクローリーを女性が運転するのもよく見かけるようになっていますが、まだまだ、この業界は女性が少ない。女性がこの業界に入りやすい、そればかりかクールに仕事ができるとあこがれる、そんな環境を実現したいと思っています。

ツネイシカムテックス株式会社は、Japan 2 Earthのロゴパートナーです。

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