野菜、果物を「冬眠」させます 年間2兆円のフードロスを救う最新技術

果物や食品の保存における新技術で、保管や輸送中の食品ロスを防ぐことで 2 兆円の節約につながる可能性がある。

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長引く物価高騰によって企業も消費者も大きな負担を強いられる中、食品の無駄な廃棄を防ぐフードロス対策の重要性が高まっている。国内の1年間のフードロスを金額に換算すると2兆円を上回るとの試算もある。捨ててしまう食品を減らすことで負担を緩和しようと、各企業では光触媒の活用や果物の呼吸制御など、さまざまな取り組みが進められている。

光触媒で22万円の損失防ぐ

静岡市のミカン農家の貯蔵庫に置かれた長方形の装置。側面には送風ファンが付いており、中からは青い光が漏れている。光触媒を使った除菌・脱臭機を製造・販売するカルテック(大阪市)が浜松市の企業と共同開発した食品の鮮度を保つ装置の試作機だ。

光触媒は、光を当てると化学反応を促進する物質の総称で、反応によって発生した活性酸素が空気中のカビなどの菌を分解するとされる。さらに重要なのが、野菜や果物の熟成を進めるエチレンガスを分解できることだという。

ミカンなどの果物は、自ら放出するエチレンガスによって収穫後も熟成が進み、鮮度が落ちたり傷んだりして売り物にならなくなる。試作機では、光触媒に光を当て、きれいになった空気を送風ファンで貯蔵庫内に送ることで、腐敗が抑えられ、鮮度も保たれる。

昨年に静岡市のミカン農家で行った試験では、4トンのミカンが保管された貯蔵庫内に光触媒の装置を導入することで、腐敗率が11・8%から0・75%に減少した。金額に換算すると22万5千円の損失を防いだことになる。

カルテックの染井潤一社長は「光触媒の装置をうまく使えばフードロスを減らし、利益を増やすことができる」と強調する。すでに静岡県では販売しており、ほかの自治体でも果樹試験場などでの検証を経て独自で商品の販売を予定する。

バナナなどを日本向けに出荷する海外の工場に光触媒を使った小型の装置の販売も計画する。染井社長は「出荷作業をする手元に光触媒で除菌した空気を送ることで、日本に着いてからの廃棄を減らせるかもしれない」と話す。

アボガドの鮮度7~8週間に

一方、ダイキン工業は果物の「呼吸」を制御することで鮮度を保つ輸送用のコンテナを販売している。

果物は輸送中にも酸素を吸収して二酸化炭素や熱、水分を排出し、鮮度が落ちていく。このときエチレンガスも排出されるため、果物を長持ちさせるには呼吸の抑制が不可欠となる。そこでダイキンは窒素ガスを注入することでコンテナ内の酸素濃度を低下させることに目を付けた。

アボカド(ウィキメディアより)

さらに長年培った空調技術で内部の温度を0・1度単位で管理できるようにしたことで、鮮度をより長い間保てるようになった。呼吸量が多く傷みが早いアボカドでは特に効果が大きく、これまで収穫から2~3週間が鮮度の限界だったが、酸素濃度を2~5%程度に下げることで7~8週間まで鮮度が保てるようになったという。

同社の担当者は「地球のほぼ反対側のメキシコなどから船便で運べるようになり、コスト削減や輸送中のフードロス減少につながる」と自信を見せる。

ダイキンのように窒素ガスなどを使ってコンテナ内の空気の質を制御する技術は需要が拡大している。年間約15万台の世界の冷蔵コンテナ需要のうち、この技術を搭載した製品は1万5千台となっている。

ダイキンは業界シェア2位で2022年の販売台数は過去最高を更新。担当者は「輸送コストが上がる中、輸送中の腐敗などによるフードロスを減らす製品はさらに求められるようになる」と話し、今後も需要は拡大するとみる。

スーパーのポイント付与

フードロスの削減は企業だけでなく、家庭にとっても重要な問題だ。帝国データバンクによると、今年度の1世帯あたりの家計における食費負担額は前年度から約2・6万円増加する見込みという。家庭でもフードロスを減らし、値上げの影響を打ち消すことが不可欠といえる。

近畿大経済学部の石村雄一准教授の試算では、全国の家庭のフードロスは金額換算で年間約9千億円に上る。外食やスーパーなどから出るロスは家庭よりも多く、少なく見積もっても国内で毎年2兆円を超える食品が廃棄されていることになる。

石村准教授のグループは家庭のフードロスを減らすための研究を行っており、全国388世帯を対象に社会実験を実施。開始当初、1世帯あたり平均で月に1422円分のフードロスが発生していたが、損失を金額で伝えたところ、廃棄が約3割減少したという。「フードロスを『見える化』することに効果がある。とくに金額で示されると人の行動は変わりやすい」と石村准教授は話す。

スマートフォンのアプリを活用して、家庭のフードロス減少に取り組む企業もある。東芝子会社の東芝データは今年1月、サッポロホールディングスなどと共同でアプリによるフードロス削減の実証実験を行った。電子レシートサービスを活用して購入した食品のデータをアプリに登録すると、フードロスが起きないようレシピや食生活の改善が提案される仕組み。提案を達成すると、連携するスーパーで使えるポイントが付与される。

東芝データの担当者は「実験の後半2週間では、家庭から出る生ごみが約55%削減できた。今後サービスとして正式に提供を始める予定」としている。

環境貢献だけでなく、コスト削減という視点でフードロス対策に取り組むことが重要といえる。

筆者:桑島 浩任(産経新聞)

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